杜野凛世の水色感情とは何なのか?
皆さん、こんばんわ。
水嶋咲のトレンチことkatariyaです。
さてさて、前のブログから大分間が空いてしまいましたが、
本日のテーマはシャニマスで出ました【水色感情】杜野凛世のコミュのお話です。
こちらのカードのコミュ内容があまりにも巨大な感情であり、それでいてかなり難解な内容となっていますのでそれの自分なりの考察と感想を書いていきたいと思います。
※注意
今回の主旨の関係上、コミュやカードの内容に踏み込んだものとなります。
そのためネタバレとなる内容もかなり含みますため、その点に注意して問題ない方は以下をご覧ください。
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◆はじめに:【水色感情】のコンセプトは「レコード音楽」と「恋」
おそらくこの記事にたどり着いた方に関していえば
シャニマス(アイドルマスターシャイニーカラーズ)をすでにプレイされている方が多いかと思いますが、
シャニマスの特徴としてプロデュースカードのSSR(以下:pSSR)のコミュに関していえば、ある種のテーマ性をもった5本のイベントで構成されています。
また、このコミュにはそれぞれタイトルが振られており、そのコンセプトに即したタイトルが付けられています
今回の【水色感情】のコミュタイトルは以下の通りとなっています。
今回で言えばTrueEndを含まない4つに関して言えば、それぞれAとBに分かれており、1~3までが(R.Morino)、4つ目のコミュに(Inst)と楽曲と歌唱者の名前のように付けられていること、またイラストに関しても蓄音機が主題にあることから、A面とB面に分かれた「レコード」としてこのカードのコミュイベントが割り振られていると考えられます
さらにそもそも今回のカードのタイトルである「水色感情」とは何なのか?
その答えは今回のカードの思い出アピールLv5の名前に出ています。
プロデュースカードのもう一つの特徴として、「思い出Lv.5のスキル名」はそれまでの+を付ける表記からそのカードの本質的なものを表すための名前となっています
シャニマスの今までのカードでもこちらは効果的な使われ方をしており、今回の【水色感情】でも効果的な変化をしています
ここでのbleuというのはフランス語で「水色(青)」という意味で、今回の【水色感情】というカード名と掛かっています。
しかし、これが思い出Lv.5になると[l'amour est]bleuと変化します。
こちらは意味としては「恋はみずいろ」という意味となります。
つまり【水色感情】というのは「恋」ということが読み取れるようになっています
これは実は有名な楽曲のタイトルで1967年に発表されたヴィッキーレアンドロスという歌手の全編フランス語の曲であり、ヨーロッパ中で大ヒットして何度もカバーをされ、日本でも森山良子など多くの歌手がカバーを歌っている楽曲となります。
(下記は楽曲のSpotifyへのリンクとなります)
さらに言えば、レコード全盛期に発売された楽曲であり、いわゆる「レコード世代の楽曲」でもあります。
そこで再度今回のコミュタイトルに注目すると、
「『レコード時代の楽曲』のタイトルやジャンルが使われているのではないか?」
という可能性が出てきます。
さらに言えば
「その楽曲の内容が今回のコミュの内容に密接にかかわっているのではないか?」
という仮説が出てくるわけです
そういった前提と仮定を踏まえた上で今回の各コミュを見ていきましょう
◆A1.君とabc(R.Morino)
ABCと言われると、おそらく世界で一番有名な楽曲タイトルとして出てくるのは1970年にThe Jackson5に歌われた『ABC』になるかと思います。
この楽曲の歌詞は一言でいえば「愛と恋の讃歌」です。
『学校では女の子との恋を学ぶために来たんだ。「君」が恋に落ちるのは数字を数えるように簡単で、愛することはABCを言うみたいに簡単で単純なことなんだ』
と若かりしキングオブポップのマイケルジャクソンとその兄弟たちが歌いあげる不朽の名曲です。
このコミュでは凛世は夏休みの宿題である英語を勉強しながらプロデューサー(以下:P)との会話を思い返していきます
選択肢は3つ。こちらの内容が非常に示唆的です
「―――夏休み、をもらっちゃうんだ」というコミュでは、オフをもらった凛世と同じタイミングでPが夏休みをもらい、その時何をやっているかの予定を聞いて、凛世は
私は彼が『今』何をやっているかが知っている、と喜ぶという内容です。
「宿題、終わったか」ではPからオフを伝えられた凛世がすこし渋るのを見て、レッスンしたいのだとPが勘違いしたのを思い返して
彼はわたしのことを『まだ』知らないわ、と少し残念そうに振り返ります
そして「―――あ、ひぐらしだ」という選択肢では、子ども時代を懐かしむPが「同じくらいの年齢だったらどうなっていただろうな」という問いかけを発して、凛世が「プロデューサー様はどうだったらよいですか?」と聞き、「今みたいだったらいいよな」と答えます。それを思い返しての凛世の言葉がこちら。
私はこの先にに何が起こるかを知らない、未来がどうなるか誰にもわからない。と締めるわけです。
ここで全ての選択肢を見ると、この選択肢内でのそれぞれの回想が一連の流れでなされている会話だとわかるのですが、その時系列と凛世自身が思い出す順番が逆になっています。
つまり「良かったことから思い返して未来への不安を思い出して感じる」という流れに構成されており、これを全部見た時に凛世という一人の少女が抱える高揚感と不安の揺れ動きが感じられるようになっているのです。
さらに、共通に使われる「know」という言葉から、「私が知っている彼」と「彼が知っている私」との間の差が「未来への不安」を呼び起こさせるという構成になっており、後述するこのカード全編における
「『私』が知っていることと『彼』が知らないことの差」
という裏のテーマが見えてくるわけです。
◆A2.恋は何色(R.Morino)
今回の表題曲となります。前述した「恋はみずいろ」はその題名の通り恋に関しての楽曲となります。
このコミュではその歌詞が非常に重要な立ち位置となってきます
(こちらは歌詞の解説を書いたサイトになります)
furansu-go.com
さて、このコミュでは非常に特徴的なセリフが出てきます
一見するとなんのことかわからないですが、こちらはこのコミュ内で凛世とPが聞いているレコードの歌詞となります。
そしてこのレコードこそが「恋はみずいろ」そのものなのです。
「どぅどぅらむぅれどぅ」とはフランス語で
Doux, doux l’amour est doux
―L'amour est bleuより
と記述します。こちらの意味は「甘い甘い 恋は甘い」という意味で、韻を踏みながら繰り返し楽曲で出てくるフレーズとなります。
凛世はこのフレーズを頭の中で繰り返します。
また、凛世の中でこの楽曲を流すレコードに対して
つややかで……
黒い……
音の出る……
盤……貴方様が……
お喜びに……なるならば……
(中略)まわる……まわれ……鳴れ………
ー【水色感情】杜野凛世「A2.恋は何色」
という風に心の中で思い、レコードの音に喜ぶPを見て心臓を鳴らします。つややかで黒いというのは、どこか凛世のイメージである黒髪を思い起こさせて、ここでレコードに針を落とし音が流れ出した時に「鳴りました」とフェスでアピールをするときと同じ音、言い方にすることからも、「凛世自身がアイドルである自分とレコードをどこかで重ねている」ような描写となっています
それを踏まえた上でこのコミュで最も重要な一文は以下の一文です
Pは「なんて歌っているのかわからない」歌に対して上記のセリフを言うわけです。
ここで前回のコミュを思い出してほしいのですが、凛世自身は「彼が私のことを知らない」ことにある種の不安を感じています。
その中でPは「わからないけど、わかるまでレコードを聴こう」というわけです。
つまり、「レコード(=)凛世のことはまだわからないけれど、それでもわかるまであなたと一緒に聴き続ける(=)一緒にいる」という意味合いのコミュとなり、その中で凛世は「甘い甘い恋は甘い」と繰り返します。
凛世自身は、「この歌のタイトル」を言った時に「意味は知らない」と心中で言っているしおそらく分かっていないにも関わらず、「その歌の本質」を歌い続けているというのが、凛世自身の秘めたる感情との重なりを生み出して非常にエモーショナルな一幕となっているのです。
◆B1.マドリガル(R.Morino)
ここからはB面ということで雰囲気が変わります
「マドリガル」というのは「中世イタリアで栄えた世俗声楽曲」のことです。世俗的ということでいわゆる恋歌など庶民の日常的な様子を歌にしたものが多かったジャンルです。しかしながら、それが一度それが途絶えた後、16世紀に非常に実験的なジャンルとして復活して不協和音や半階音を取り入れながら混声でそれぞれのパートが流れて歌っていくような形式のものを指すようにもなりました。各々のパートが調和をあまり気にせず飛び出してくるのが面白い構成ですね
マドリガルの詳しい解説はこちら
こちらはマドリガルの楽曲のひとつ
日本ではアイドルで言うと南野陽子が『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』の主題歌として『風のマドリガル』という楽曲を歌っている。この曲でのマドリガルの意味は「短い詩の恋歌」となっていたりします。これもまた恋の歌だったり。
このコミュではPとカラオケボックスに行き、様々な物事がかわるがわる混声の混ざりあいのように凛世に押し寄せてきます。
そして、凛世にとってはドキドキのシチュエーションとなっていくわけです。
このコミュに関してはひたすら振り回されて、あわあわとする様子をみながら「凛世かわいいよ凛世」となるのが主題のコミュで、どちらかというとコミカルな内容となっています。
ただ、その中でもPは割と無自覚に距離感近かったりしており、あまり凛世と二人っきりということを意識しません。こういったところにも、凛世の気持ちというものを分かっていないPの感じが出ています……いや正しいんだけどね……
この時点で、凛世が割と恋に対してかなり自覚的になり、こういったシチュエーションが「ドキドキするものなのだ」というのがわかっているという認識のレベルがわかる意味でも貴重なコミュです
◆B2.人の気も知らないで(inst)
さて、ついにラストのコミュとなります
『人の気も知らないで』というのは有名なシャンソンの曲名です。
1931年に映画『ソラ(Sola)』で主演であったダミアが歌った挿入歌です。
原題は『Tu ne sais pas aimer』となります
フランスの生まれの彼女は多くの謎に包まれていますが「シャンソンの悲劇女優」と呼ばれ、アンニュイで憂いを帯びた楽曲が多い歌手です。
また、発禁となった一部界隈で有名な「暗い日曜日」を歌ったことでも知られます。
この歌は年上の女性が年下の青年に「あなたは愛することを知らない」と言い、彼がどうせ愛することを知らず自分の元を去っていくだろう、だから最後にはアデューと別れを告げる、という内容になっています。
日本でも1938年渋谷のり子さんが歌い、日本コロムビアからレコードが出ていたりします。
このコミュはInstとなっている通り、今まで凛世視点で描かれていたコミュがP側から見るような描き方をしています。
そして、「私を知らない彼」だったPが気づきを得る瞬間のコミュとなります。
それは「彼の中で凛世の思いに対する気づきを感じる」コミュでもあるのです。
コミュの内容としては、コミュの冒頭で事務所に蝶が迷い込み、それを外に逃がす、というそれだけのシーンです。
しかし、このコミュ自体は暗喩の嵐でその感情の流れを紡いでいきます。さらにこのコミュはA面の終わりの曲である「恋は何色?」と対をなすようにできています。
このコミュでも選択肢は以下の通り
「―窓から放そうか」を選ぶと、凛世が迷いながら窓から蝶を放し、窓を閉めずじっとその蝶の行方を追います。「窓を閉めないと迷ってしまう」というPに対して、凛世は「きっと、迷いたい時もあるのでしょう」とつぶやくように言います。
そして、Pは「それでも帰してあげなきゃ」と道を定めるように言い、凛世はすこし悲しそうな表情でうなづき、Pの耳には「恋はみずいろ」が流れ続けるという内容です。
ここでお気づきの方もいるかと思いますが、このコミュで迷い込んだ青い蝶は凛世の暗喩となっています。つまりこのコミュは「蝶(=)凛世が恋に迷ったとしても、でも帰らなきゃとPが諭す」という意味になります。
そして、重要なのはここでPの耳から「恋はみずいろ」が離れなくなっている点です
つまり、彼は無自覚に凛世と接してきた中で、彼女の少し悲しそうな表情がフラッシュバックして「恋は何色?」の時の表情と重なるわけです。彼は知らずに凛世を諭して彼女の恋心を見ていなかったのに「その裏にある何かに気づき始める」というシーンでも
あります。
他の選択肢も見ていきましょう。
「―なんて蝶かな?」では、「恋は何色?」で流れていた曲を思い出し、この蝶をミズイロアゲハと名付けます。そしてその名を凛世が美しいといい、その凛世を見たあと、Pの耳にはまた『恋はみずいろ』が流れ始めるのです。
ここで前の解釈を見るのであれば「凛世が美しいと笑顔になったところで『恋はみずいろ』が流れ始める」つまり、「恋の音」となり、気づきのひとつのきっかけとなる選択肢になっています。
そして、このコミュ自体のテーマとなるのが「―驚いているかな、この蝶」です。凛世はこの中で「蝶は月を頼りに飛ぶ。凛世も同じである」と言います。
そしてそれに対してPはこのようなセリフを返します
ここで、Pと凛世の立場が逆転するようになります。
つまり、
「彼女を知らないP」
「Pを知っている凛世」
の差がなくなり、彼女が自分を追いかけて自分を見せていたものが反転するのです。
このセリフこそが「彼女を知らないP」が変わっていくきっかけのセリフです。
つまり彼女が不安に思っていた「彼が自分を知らないこと」がここで差がなくなり、P自身が凛世を追いかける立場になるのです
◆R&P
そして、Trueエンドとなります。
こちらは楽曲自体はありません。ここでいうR&Pは単純な見方で言えば「凛世」と「プロデューサー」のことでしょう。
しかし、前のコミュでPの中で気づきがあり「立場が逆となった」と話ました。
つまり、このタイトルの意味というのは『逆になる』ということ、すなわちレコードを「Reverse」してもう一度「Play」するという意味にも取れます。
それはコミュ内でも示されています
Pが今度は「知らないこと」を自覚し不安となり、凛世によって導かれていく
知らないということを知り、凛世を追いかけていく立場になる
そして、そんなプロデューサーに対して、凛世がまた知らなかった新しい側面を見せより輝きを見せていくのです。
◆終わりに
このカードのコミュは「知る」ということと「恋」を中心に、立場の変化と、それにまつわる心情を音楽に合わせて描いていくという非常にハイコンテクストな作りとなっていました
レコードのように踊り歌う凛世にはおそらくまだまだ見えない面があるでしょう。
私たちPは今後それらを多く知っていかなければならないという最良のコミュではなかったかと思います。
この解説ですこしでもアイドルのコミュに興味が惹かれて、「知って」いただければ幸いです
ここまで長い文章を読んでいただきありがとうございました!
(こんな長くなる予定ではなかった……)
それではまた。